[大学教育フォーラム2025]『電気通信大学におけるラーニングアナリティクスシステムの運用と成果』ご講演メモ
日本データパシフィック株式会社 代表取締役 平 治彦
「大学教育フォーラム2025」が2025年3月6日に開催されました。 多くの皆様にご参加いただき、誠にありがとうございました。
電気通信大学 eラーニングセンターの高木正則准教授より、『電気通信大学におけるラーニングアナリティクスシステムの運用と成果』についてご講演いただきました。
コロナ禍を経てeラーニングの活用が定着しましたが、次の段階として蓄積されたデータを活用し、学習者や教員へのフィードバックや可視化を行うLA(Learning Analytics)が注目されています。 現在、日本国内においては事例が少なく、大変貴重なご講演となりましたので、メモをまとめさせていただきました。
「LAは手段であり目的ではありません、気づきを与えるための道具です。」
電気通信大学は学部生が約3,300人、大学院生が約1,400人が通う理工系の国立大学です。 eラーニングセンターでは令和3年からLearning Analyticsシステム(以下LAシステム)の検討と準備を進めてきました。
LAシステム開発の背景には「自律的に進化する学生」を育てる目的があります。 LAに近いものにIRがありますが、IRは大学運営に必要な情報を提供し、LAは学習者にフォーカスするものです。 LAは手段であり目的ではありません、気づきを与えるための道具なのです。
「UEC-LAP」開発の背景
コロナ禍によって、eラーニングによる教育の需要が増加しました。 現在は学習ログを活用した「エビデンスに基づく教育」の需要が増加していることから「UEC-LAP」の開発をスタートしています。
UEC-LAPの活用により「教員は教育改革」を「学生には学習改革」を促し、学生中心の教育の実現を目指しています。 なお、UEC-LAPは教員を管理したり、個々の授業の評価をする目的で利用することはありません。
2018年度以降の学習ログを収集し、2023年度から試用データとして利用を開始しました。
学習ログの収集と可視化について
電気通信大学ではWebClass、Moodle、Google Classroomなどの複数のLMSを科目の特性に応じて使い分けています。 WebClassとMoodleからはログイン・ログアウト、教材の利用開始・終了、テストの点数・設問毎の正解不正解、レポートの点数など10項目のデータを連携しています。 なお、Google Classroomからはレポート課題の情報を取得しています。
各LMSからの学習ログは1日1回、Learning Record Store(LRS)サーバに集められます。 そのデータをLearning Analytics(LA)サーバで可視化し、学生や教員に公開しています。 クラス毎の成績分布や小テストの得点、レポートの得点、閲覧回数、利用時間などの情報が箱ひげ図などを用いて可視化されています。
各LMS上で開講された「講義回」毎に分析できるよう工夫しています。 WebClassやMoodleでは「ラベル」や「トピック」を付けられますが、そこに授業回を特定する数字を入れることで識別できるようにしています。
「LAの画面を定期的に閲覧し、振り返りを」
学生からはこれまで個人情報の取扱に関する許諾を入学時に取得しておりました。 UEC-LAPで扱う学生のデータについてもこの取り扱いの範囲で利用しています。 利用したい教員からはeラーニングセンターに申請を出してもらうことで利用ができます。 教員はUEC-LAPの情報を確認して、学生に公開するかどうかを判断します。
学生は定期的にUEC-LAPを確認することで「周りも頑張っているようだ、自分も頑張ろう」などのように、頻繁に振り返りをすることができるようになりました。 学生からは「学習の改善に役立った」「他の科目でもデータを閲覧したい」という意見が出ています。
教員は必要に応じて助言や励ましなどの支援を行い、テストの未受講がある学生については早めに声がけをするなど、きめ細やかな支援ができるようになりました。
「適切なLMSの利用を推進」
学習ログが溜まっているだけでは有用な可視化に繋げることができません。 教員側も授業デザインに基づいてLMSの利用方法を見直す必要があります。 改善サイクルを回していくことで、より質の高い教育が可能になるのだろうと思いました。
まとめ
高木先生がおっしゃられた「LAは手段であり目的ではありません、気づきを与えるための道具です。」という言葉が、ご講演全体を通して伝わってくる一貫したメッセージでした。
また、情報の取り扱いについても、学生からの許諾の取得や、利用される先生方の意思を尊重した運用など、大変丁寧な取り組みをされていると感じました。
今回のご講演を通じて「自律的に進化する学生」のための道具、それが「UEC-LAP」なのだと深く理解することができました。
最後に、共催ならびに第2部でご講演いただきました三谷商事様にも感謝申し上げます。